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バリ取り機と粉じん障害防止規則:局所排気装置の必要性と安全対策
2025.09.05
粉じん障害防止規則の概要と目的
粉じん障害防止規則とは、作業中に発生する粉じんによる労働者の健康障害を防止するための安全基準を定めた規則です。労働安全衛生法に基づく特別規則の一つであり、長期間にわたる粉じんの吸入により肺に粉じんが蓄積して生じるじん肺などの職業病を予防する目的があります。金属の研磨やバリ取り作業もこの「粉じんが発生する作業」に該当し、規則に則った対策が必要です。粉じんを吸い続けると息切れや動悸といった症状が現れ、進行すれば肺が黒く硬化して機能を失う不治の病(じん肺)につながりかねません。このような健康被害を未然に防ぐことが粉じん障害防止規則の根本目的であり、規則では設備面・作業方法面で取るべき措置が具体的に定められています。
バリ取り作業における粉じん発生のリスクと健康被害
バリ取り作業では、素材を削ったり磨いたりする過程で微細な粉じん(削り粉や研磨粉)が大量に発生します。とりわけ金属製品のバリ取りでは、金属粉じんを吸入することによる呼吸器への蓄積が深刻なリスクです。粉じんを長期間吸い込むと肺機能が徐々に損なわれ、息切れ・喘鳴・慢性気管支炎などの健康障害を引き起こし、最終的にはじん肺を発症する可能性があります。一旦じん肺にかかると現代の医学でも治療が困難であるため、そもそも粉じんにさらされないよう職場環境を整備することが極めて重要です。
さらに金属粉じんの場合、健康障害だけでなく爆発や火災の危険も伴います。微細なマグネシウムやアルミニウム粉じんが空気中に舞う環境では、ちょっとした火花が引火源となって粉じん爆発が発生しかねません。実際に、マグネシウム合金のバリ取り作業を行っていた工場で粉じんに引火し、大規模な火災と爆発事故に至った事例があります。この事故では、集塵装置(局所排気装置)がほとんど機能しておらず、作業者にも防じんマスクを着用させていなかったため「工場内では常に粉じんが舞っており、いつ爆発してもおかしくない状況」だったと報告されています。結果的に工場長が死亡、他の複数名も重傷を負う惨事となりました。こうした事例からも、粉じん対策を怠ることは労働者の生命を脅かす重大なリスクであることがわかります。
バリ取り機の種類と粉じん発生の特徴
バリ取り機には様々な種類があり、その方式によって発生する粉じんの量や性質も異なります。代表的なバリ取り機の種類と粉じん発生の特徴について押さえておきましょう。
ローラータイプやブラシタイプのバリ取り機は、研磨ベルトや円筒ブラシなどの研削研磨によってバリを削り取る方式です。このような研削型の機械では、金属粉や砥粒の微粉じんが発生しやすく、適切な吸引・集塵対策なしでは作業場に粉じんが拡散してしまいます。特に乾式で行う研磨工程では粉じんが飛散しやすく、作業者の周辺環境を大きく悪化させる要因となります。
一方、ボールスパッタ方式(ボールでバリを叩き潰すタイプ)のバリ取り機では、超硬球による打撃でバリを塑性変形させ除去します。この方式は研削を伴わないため粉じんの発生がほとんどなく、工場内の環境をクリーンに保てるとされています。実際、従来の研削型バリ取り機では不可避だった粉じん公害を、ボール方式が一掃したとの評価もあります。例えばファブエース社の機種では「研削加工でないため、粉じんもほとんど発生せず、工場内の環境をクリーンに保つことができます」と紹介されています。このように方式の選択によって粉じん発生量を抑えることも可能です。
さらに、湿式加工(ウェット式)のバリ取り機では加工部に液体を用いて粉じんの飛散自体を防ぎます。研削中に発生する粉じんを水やクーラントで濡らしながら除去することで、「粉じん・発熱のない湿式加工」を実現している機種も存在します。湿式は粉じん障害防止規則上でも「湿潤な状態に保つための設備」として、局所排気に代わる有効な措置と認められています。このように、バリ取り機のタイプごとに粉じん発生状況は異なり、加工材質や求める仕上げ品質と合わせて粉じん対策のしやすさも考慮して機種選定することが望ましいでしょう。
局所排気装置の法的要件と設置義務(バリ取り機の場合)
局所排気装置とは、粉じんなど有害物質の発生源から直接吸引して大気中への放出を防ぐための排気装置です。粉じん障害防止規則では、特に屋内で機械を用いて行う粉じん作業(特定粉じん作業)について、局所排気装置の設置が義務付けられています。金属の研磨やバリ取り作業であって固定式の機械を使用する場合(手持ち式・可搬式の工具を除く)は、規則別表第二の第7号に定める「特定粉じん発生源」に該当し、必ず局所排気装置と除じん装置(集塵機)を設置しなければなりません。言い換えると、バリ取り機を単体で導入するだけでは不十分で、発生源に排気フードを設けて吸引し、粉じんを捕集するための集塵設備まで含めて一式を備える必要があります。規則上は例外的措置として「作業箇所を常に湿潤な状態に保つ設備」の設置でも可とされていますが、現実的には乾式であれば局所排気装置の設置が不可欠と言えるでしょう。
局所排気装置にはいくつかの技術的要件も定められています。例えば排気フード・ダクト・ファンは適切に機能するよう設置し、通常は排気の出口を屋外に設けなければなりません(ただしろ過式や電気式の集塵装置を付設した場合、粉じん則第7号の発生源では屋内排気も例外的に認められます)。また、局所排気装置および集塵装置については1年以内ごとに1回、定期に自主検査を行い、その記録を3年間保存しなければなりません。装置を良好に維持管理し、法定の点検項目(フードやダクトの損傷や粉じんの堆積状況、ファンの駆動状態、吸排気能力など)に従ってチェックを行うことが求められます。これらはすべて労働者の粉じん曝露を最小化し、安全に作業を行うための必須要件です。
バリ取り機導入時の届出義務
バリ取り機を新たに設置する際には、法令に基づく所定の事前届出も必要です。労働安全衛生法第88条第1項により、労働者に健康上影響を及ぼす機械装置を設置・変更する場合には、その工事開始の30日前までに所轄労働基準監督署長へ計画届を提出しなければなりません。バリ取り機の場合、これは具体的に「局所排気装置設置摘要書」という書類の提出を指します。バリ取り機は上述のように集塵機を伴う局所排気装置として扱われるため、その設置計画を事前に届け出て承認を受ける必要があるのです。なお、据付型のバリ取り機とは異なり、グラインダーやベルトサンダー等の手持ち式・可搬式の工具によるバリ取り作業については届出不要とされています。しかし届出が不要であっても、後述のように作業環境の清掃など粉じん対策そのものは依然として求められますので注意が必要です。
労働安全衛生法との関係と求められる対策
労働安全衛生法は労働基準法と並んで労働者の安全と健康を守る根幹となる法律であり、粉じん障害防止規則はその下位法令として粉じん作業に特化した詳細ルールを提供するものです。安衛法第22条では事業者に対し「労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置」を講じる責務が定められており、粉じん障害防止規則第1条でも「設備や作業工程、作業方法の改善、作業環境の整備等必要な措置」を講ずるよう努めなければならないと規定されています。つまり、バリ取り作業で発生する粉じんから労働者の健康を守ることは法令上の義務であり、経営者・設備担当者は適切な安全衛生措置を取る責任があるのです。
具体的に事業者が講じるべき対策としては、前述の局所排気装置や集塵機の設置・維持管理が最重要です。同時に、作業場の換気を十分に行い粉じん濃度を下げる全体換気措置や、作業方法の見直し(湿式化や自動化による粉じん低減)も有効でしょう。規則では粉じん作業を行う屋内作業場について少なくとも月1回は真空掃除機による清掃を実施することが義務付けられており、手持ち工具でのバリ取り作業であっても「毎日1回以上の清掃」と「月1回以上の真空掃除機による清掃」が求められています。したがって現場では、こまめな清掃と粉じんの蓄積防止も重要な管理ポイントとなります。
さらに、防じんマスクなどの個人保護具(呼吸用保護具)の着用も欠かせません。局所排気装置を設置していても、作業者が近接して作業する以上は微量の粉じん曝露を完全にゼロにはできません。そのため、国家検定合格の防じんマスク(区分DS2以上など)を適切に装着させ、作業者の呼吸器を保護する措置が必要です。粉じん障害防止規則では有効な呼吸用保護具の選択・着用や作業環境測定の実施、特殊検診(じん肺健康診断)の受診なども定められており、総合的な健康管理を行うことが求められています。実際に、防じんマスクを着用させずに粉じん作業に従事させた事業者が労基署により書類送検されるケースも発生しています。現場では設備面の対策と併せて作業者への保護具着用の徹底や粉じんのリスクに関する教育を実施し、法律で定められた安全配慮義務を確実に果たすことが重要です。
現場での指摘事例と遵守すべきポイント
粉じん障害防止規則に違反した事例としては、先述の防じんマスク未着用での作業や、局所排気装置を設置せずに粉じん作業を行わせたケースなどが各地で指摘されています。例えば金属製品のバリ取り作業で作業者に防じんマスクを使用させなかったとして、安全衛生法違反(粉じん障害防止規則第27条違反)で書類送検された事例が報告されています。また、作業場に局所排気装置を設置していたものの、十分に機能していなかったために粉じんが充満し爆発事故を招いたケースでは、安全配慮を怠った企業の管理者が刑事責任を問われています。これらの事例から学ぶべきポイントは以下のとおりです。
- 設備任せにしない
局所排気装置や集塵機を設置していても、適切に稼働・メンテナンスされていなければ意味がありません。フィルターの詰まりや吸引力低下がないか定期点検し、常に粉じんを効果的に捕集できる状態を維持しましょう。 - 作業環境を管理する
装置に頼るだけでなく、作業場の清掃や換気など基本的な環境整備を疎かにしないことが肝心です。床や設備に積もった粉じんは定期的に除去し、特に乾燥した粉じんが堆積・飛散しないよう注意します。 - 保護具と教育
作業者自身にも防じんマスクの正しい着用を徹底させ、粉じん曝露の自己防衛策を講じます。あわせて粉じんの健康影響や防止策について周知教育を行い、作業者の危機意識を高めることも重要です。
いずれのポイントも、「粉じんから作業者の健康を守る」という規則本来の目的に立ち返れば当然の取り組みと言えます。事業者は法令を遵守するとともに、現場で想定されるリスクを積極的に洗い出して安全対策を実践する姿勢が求められます。
粉じん対策を講じないリスク
バリ取り作業において粉じん対策を怠った場合、企業と労働者双方に重大なリスクが生じます。まず健康面では、前述のとおり作業者がじん肺症や慢性呼吸器障害に罹患する恐れがあります。じん肺は一度かかると治癒が困難で、長年にわたり労働者の生活の質を損ないかねません。健康被害が発生すれば、労災補償や治療費負担だけでなく、最悪の場合は企業に安全配慮義務違反による損害賠償責任が問われる可能性もあります。特に粉じん障害は予防が重視される分野であり、過去の判例でも「必要な措置を怠った事業者」に対して厳しい姿勢が取られています。
また、法令違反による行政処分や刑事罰もリスクとなります。粉じん障害防止規則や労働安全衛生法の違反が認められれば、労働基準監督署による是正勧告や使用停止命令を受け、悪質な場合は書類送検・罰金刑につながります。例えば前述のマスク未着用のケースでは、事業者と工場長が労安法違反の疑いで検察に書類送致されており、企業イメージの失墜は免れません。さらに、粉じん爆発などの重大災害が起これば人的被害に加えて設備・製品の損壊や生産ラインの停止といった莫大な損失が発生します。生産活動の継続性が損なわれ、取引先からの信頼も失う事態となり、企業経営に深刻な打撃を与えるでしょう。
総じて、粉じん対策を講じないことは「労働者の健康」と「企業の存続」の両面に対するリスクとなります。法令違反による罰則リスク、労災発生による社会的信用の低下、被災者への補償や訴訟リスクなど、対策を怠る代償は極めて大きいと言えます。
粉じん対策を徹底するメリット
逆に、粉じん対策を万全に講じておくことは職場にもたらすメリットが多大です。第一に労働者の安全と健康が守られることで、安心して作業に従事できる職場環境が実現します。作業者が健康被害の不安なく働けることは士気向上につながり、生産効率や作業品質の維持にも寄与します。適切な集塵設備により常に空気がクリーンに保たれた工場内では、機械設備への粉じん堆積も防げるためトラブル発生率も下がります。つまり、安全対策の充実は職場環境の改善と生産性の向上という形で企業に還元されるのです。
また、局所排気装置付きのバリ取り機を導入すれば、手作業で発生していた大量の粉じんを吸引・除去できるため工場内の環境改善に大きく貢献します。実際に「バリ取り機は工場内の環境を良化するためにも役立ちます。手作業でバリ取りを行っている工場では、粉じんが発生して環境が悪化していることもあります。バリ取り機の中には付帯設備として集塵機を取り付けるものがあり、発生する粉じんを工場内に飛散させることなくクリーンな環境でバリ取りが行えます」と紹介されている例もあります。このように、粉じん対策投資により作業環境そのものが快適になり、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底にもつながるでしょう。
法令遵守の観点からも、必要な対策を講じておけば監督官庁の調査や監査に対して胸を張ることができます。労働災害防止に積極的に取り組む企業として社外からの評価が高まることも期待できますし、何より「従業員を大切にする安全文化」の醸成は長期的な企業発展の基盤となります。結果的に労使関係の信頼向上や優秀な人材の定着といった副次的なメリットも得られるでしょう。
最後に、バリ取り作業は製品品質や生産効率にも直結する重要工程です。適切な粉じん対策とともに省力化機械を導入することで、生産効率の飛躍的向上や品質の安定化、さらには人手不足の解消にもつながります。粉じんが舞わない快適な作業環境であれば、作業者の集中力も増しミスやロスが減る効果も期待できます。以上のように、粉じん対策を講じることは法令順守のためのコストではなく、将来的なリスク削減と職場改善のための有益な投資と位置付けることができるでしょう。
おわりに
金属加工や樹脂加工の現場において、粉じん障害防止規則の遵守は従業員の健康と安全を確保するための最低限の責務です。特にバリ取り機の導入時には、局所排気装置(集塵機を含む)の設置や事前届出など押さえるべきポイントが多々あります。本記事で解説したように、粉じん発生源への適切な装置設置と日常的な作業環境管理を徹底し、「粉じんから作業員の健康を守る職場環境」を整えることが何よりも重要です。義務を怠った場合には罰則適用のケースもあり得ますが、それ以上に大切なのは現場で働く人々の安全と会社の信頼を守ることです。粉じん障害防止規則や労働安全衛生法の正しい知識を身に付け、設備担当者として率先して適切な対策を講じることで、安全で快適な職場づくりに貢献していきましょう。